財源不足の解消意欲をそぐ

地方交付税地方交付税は、国税の一部と借入金で賄われた総額を、総務省により厳密に定められた算定方法で各自治体へ分配する。ところが、この算定方法にも、地方の財政規律を阻害する要因が秘められている。

各地方自治体に交付される交付税額は、個々に今年度の標準的な税収の見込み額(基準財政収入額)と標準的な支出の見込み額(基準財政需要額)を統一的な基準に従って算定し、基準財政需要額マイナス基準財政収入額を財源不足額と呼び、財源不足額がプラスとなる地方自治体にのみ、財源不足額に比例して交付税が交付される。財源不足額がマイナスとなる(基準財政収入額の方が多い)自治体には、基本的に交付税は交付されない。交付税が交付されていない自治体の代表格は東京都である。現行制度の下で、地方自治体が経済合理的に、行政サービスにかかる住民の費用(租税)負担をできるだけ少なくしてその便益をより大きくするには、どのような行動をとるだろうか。

そもそも、交付税の総額が決まれば、交付税を得るための追加的な租税負担は必要ない。だから、この制度を使ってより多く便益を得るには、より多く交付税を得て、それでより多く行政サービスのために支出すればよい。では、交付税をより多く得るにはどうすればよいか。それは、基準財政需要額ができるだけ多くなる「努力」をするのが一つの方法である。

すなわち、基準財政需要額に算入される費目の支出を積極的に行うことである。そうすれば、基準財政需要額が多く算定され、財源不足額が多くなり、より多く交付税を得ることができる。例えば、地元経済の産業構造から見れば必要のない(が基準財政需要額に含まれる)港湾を優先的に着工すれば、基準財政需要額が増加した分だけ財源不足額は増加する。したがって、交付税を多く得るために、基準財政需要額に算入される経費を積極的に削減しようとはしない。

別の言い方をすれば、算入対象経費を削減しても、その分基準財政需要額、ひいては交付税(財源不足額)が減少するため、自治体の収支はほとんど改善しないから、歳出削減を怠る誘因が現行の地方交付税制度には内包されているのである。

また、基準財政収入額ができるだけ少なくなる「努力」をする方法もある。地方税は、税率や税目が国の法律である地方税法で定められ、かつ基準財政収入額の算定もこれに基づいている。そのため、地方自治体が独自に税率や税目を変えて基準財政収入額を少なくする余地は、基本的にない(固定資産税はこれと異なる・後述)。しかも、徴税努力を怠ると、地方債の起債が認められなくなるため、これを怠って基準財政収入額を減らすことも有効でない。しかし、基準財政収入額を少なくすることは可能である。

例えば、市町村には固定資産税の課税対象資産の評価額決定についてある程度の権限が与えられており、その課税対象資産の評価率を(追加的に)低くすれば、固定資産税収(見積り及び実績)は少なくなる。固定資産税収の見積り額を減らせば、基準財政需要額は少なくなる。これにより、基準財政収入額が(追加的に)少なくなり、財源不足額が多くなるため交付税がその分だけ多くなる。

つまり、住民の租税負担を減らしても財源が交付税で確保できる。補助金がもらえるのに、好きで地元住民の税負担を重いままにするだろうか。だから、地方自治体は積極的に基準財政収入額を増やそうとはしない。このように、税収増加を怠る動機付けが現行の地方交付税制度には内包されているのである。こうした形で誘因が働くことは、現行の地方交付税制度が期待していることではない。しかし、制度が内包している動機付けが経済合理性から見て上記の通りであるから、これはモラル・ハザードが生じている状況といえよう。すなわち、地元の行政のニーズに応えるべく住民が望む支出を優先して不必要な支出を止めたり、地元経済を活性化するなどして自主財源を増やしたりする政策努力を怠り、交付税に依存し続けようとする状況である。

ちなみに、モラル・ハザード(道徳的危険)という経済学の専門用語は、望ましくない危険な状態を回避するために、万一危険な状態に陥ったときには助けると事前に約束したのだが、約束した後で(この約束を逆手にとって)むしろ危険な状態を回避する努力を怠る状況を指す。代表的な具体例は、自動車保険や医療保険における状況である。本来、自動車事故や病気にかかることは避けたい危険な状態である。そこで、自動車保険や医療保険に加入して、万一自動車事故に遭ったり病気にかかったりすれば助けてもらえるようにする。

ところが、保険に入った後では、どうせ危険な状態に遭っても助けてもらえる、と保険を逆手にとって、保険の加入者が安全運転や健康管理を怠ってしまう。こうした状況がモラル・ハザードである。地方交付税は、地方自治体に健全な財政運営をしてもらうために国が分配しているはずなのに、自治体はこれを逆手にとって、自らが財政を健全化する努力を怠りがちになるのである。まさに、モラル・ハザードの状況である。

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